電気自動車先進地域の一つと言えるドイツにおいて,その普及についての実情を紹介した記事がありましたので、紹介してみます.
Schadenfreude(他者が不幸、悲しみ、苦しみ、失敗に見舞われたと見聞きした時に生じる、喜び、嬉しさ)といった低次元の話で片付けるのではなく、日本の将来に向けて、どう考えていくのかが大切なのではないでしょうか?それにしてもドイツの人たちのバイタリティーには感服します。
地下駐車場での悪夢
集合住宅に電気自動車の充電ステーションが設置され、最近になって補助金も出るようになった。素晴らしい話に聞こえるが、何人もの電気工事士を呼んだり、所有者同士のトラブルに巻き込まれたりした末、私は悟った。これは地獄だ!
私はハンブルク・アイムスビュッテルにある集合住宅に住んでいる。改修済みの古い建物で、22世帯が住んでおり、そのほとんどが大卒者で、多くの世帯に10代の子供がいる。しかし、ここで話題にしたいのは建物の地下にある駐車場だ。そこには6台分駐車スペースがある。そのうちの1つが私のものだ。私を含めたこの駐車スペース所有者たちは、毎日路上で「一体どこに駐車スペースがあるんだ」という神経をすり減らすようなビンゴゲームに参加しなくて済むことに大いに安堵しているが1、それでもまだ足りないものがあることを痛感している。電気自動車を充電するための電力である。電気自動車を購入は――気候変動対策の観点から極めて合理的であるというだけでなく――この地域では、専用のウォールボックスが確保できなければ意味をなさない。
確かに、公共の充電スタンドはある。だが、この地域では空いているのを見かけることはほとんどない。私の知人は、テスラを乗り始めて以来、充電できる確率が高くなるという理由で、定期的に夜中の3時まで起きて待っている。しかしながら彼は6時半には起きなければならない。彼は電気自動車に乗り始めてから本当に老けてしまった。
しかし、自宅用のウォールボックスを設置するのは、思っていたより費用がかかり、複雑だ。一戸建てに住んでいない場合はなおさらである。ようやく導入された集合住宅での充電にも助成を行う政府による新しいプログラムでさえ、極めて複雑な要件を課している。そして、他の住民とは異なる考えを持つたった一人の住人が、多くのことを挫折させてしまう可能性があるのだ。
一方で、様々な助成プログラムのおかげでガレージの壁にウォールボックスを設置し、朝は口笛を吹きながら、まるで魔法のように充電された車に乗り込む一戸建ての住人たちもいる。市場調査会社ウスカーレ(Uscale)の調査によると、2024年時点で、一戸建て住宅に住む電気自動車所有者の90%が、自宅に充電設備を設置している。
他方で、集合住宅におけるウォールボックスの普及は厳しい状況だ。ADAC2の調査によると、2022年時点で、賃貸マンションや分譲マンションで構成される建物のうち、充電ステーションを備えているのはわずか7%だった。現在でも、その割合はわずかに増えた程度だろう。この数値は残念なことだ。なぜなら、ドイツの全住宅の約70%が集合住宅にあるからだ。
ウスカーレは、普及が遅れている理由の一つとして、住民間の調整がしばしば困難であることを挙げている。「特にマンション所有者組合では、充電技術に関する拡張性のある解決策について、すべての当事者が最初の時点から合意に達するのは難しい」と、調査責任者のアクセル・スプレンガーは語る。そしてもちろん、資金の問題もある。電気自動車を所有していない人々の分の費用を負担することなく、段階的に拡張していくことができる充電システムを構築していく技術は、まだ存在しないのだ。
まさにこうした状況を改善するのが、交通省の助成プログラム「集合住宅での充電(Laden im Mehrparteienhaus)」だ。連邦政府は2026年4月中旬から、総額最大5億ユーロを投じ、集合住宅へのウォールボックスおよび関連インフラの設置を支援している。助成の対象に、企業や賃貸人だけでなく、私たちのようなマンション所有者組合も含まれることがプログラムには明記されている。
この助成制度を知った時、私は文字通り「電気が走った」ような気分になった。というのも、1年以上前から、私は6人の駐車スペース所有者を代表する「ウォールボックス担当者」として、電気工事会社から見積もりを取り続けていたからだ。
それは決して容易なことではなかった。メールの問い合わせに全く返信しない業者もいれば、少なくとも断ってきた業者もいた。また、地下駐車場の詳細な写真を要求しておきながら、その後は音沙汰がなくなった業者もいた。返信のない業者数社に電話で問い合わせてみると、ある事実が明らかになってきた。多くの技術者は、「マンション所有者組合」、略してWEGという言葉を聞くだけで、すでに身構えてしまうようである。考え方が異なる複数の所有者間の相互の利害調整のハードルの高さ、そして通常は、住宅の管理にあまりに過重になっているか、あるいは逆に全く無関心であるーーこうした状況が技術者を遠ざけるのだ。ある技術者はこう表現した。「あなたは、マンション所有者組合員としてかなりまともな方だが、経験的にみて、組合員の中にはそうとは言えない方が必ずいる。そうした『変人』と付き合うのには、もううんざりしている」。
私たちは皆、意見が一致していた。その後、一人が抜けた。
当時、私はこうした議論に激しく反論していた。しかしその後、ハンブルク・アイムスビュッテルでも、マンションの住民たちは偶然集まった人々の共同体であり、その大半は愛すべき人々ではあるが――あくまで「大半」に過ぎないということを、身をもって知ることになった。
その間に、6台のウォールボックスとその設置をセットにした見積もりをいくつか受け取っていた。最も高い見積額には、老舗のA社があった。その設置担当者は、社名が入ったきれいな作業服を着てガレージの視察に現れ、設置するウォールボックス1台あたり5,100ユーロ以上を請求した。さらに、1キロメートルあたり2ユーロの定額出張料金が加算され、移動時間も労働時間としてカウントされた。同社はハンブルクの郊外にあったので、 これは当然のことだった。
最も低い価格を提示してきたのは、B社であった。シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州の電気工事会社で、30歳前後のエネルギッシュな社長が率いており、すべて込みで充電ポイント1つあたりわずか2,500ユーロであった。残念ながら、彼にとってこちらからの質問への回答が次第に負担になってきたため、取引関係は早期に終わってしまった。「まだ正式な注文も入っていないのに、こなさなくてはならない作業量が多すぎる!」と彼は電話口で叫んだ。私は、一つの条件が明確になることが、次のプロセスの前提条件になっていることを説明しようとしたが、それでも連絡は途絶えてしまった。
こうして、信頼できる見積もりは3件残った。2件はザウアーラント地方に本拠地を置くメネケス(Mennekes)社製のウォールボックス、1件はノルウェーのメーカーであるイージー(Easee)製の機器だった。いずれも、ウォールボックスへの電力供給は各駐車スペース所有者のメーターを経由する仕様だった。複数の利用者が同時に車を充電したい場合、負荷管理システムが利用可能な電力を配分する仕組みになっていた。また、アプリと連携するための地下駐車場のWi-Fiルーターとアクセスポイントも計画されていた。価格は駐車スペース1区画あたり約3,400-4,000ユーロだった。子供がいる上に、マンションのローンがまだ残っている身にとっては、やはり考えさせられる投資だ。
実際、6番目の駐車スペース所有者――ここではCさんと呼ぶことにしよう――は、すでに私に以下のような丁寧なメールを送ってきていた。彼の運転習慣(どうやらあまり運転しないらしい)と、当マンションの差し迫った改修費用を考慮すると、彼にとって電気自動車は「まだ先の話」だというのだ。彼はこのプロジェクトから脱退するとのことだ。これで私たちは5人になった。
これ自体はさほど問題ではなかっただろうが、前述の助成プログラム「集合住宅での充電」が、物件の駐車スペースの少なくとも20パーセントが電気自動車対応になって初めて助成金を支給し、かつ駐車スペースが6台未満の場合は対象外であるということを知ってしまったのだ。例えば、3台の電気自動車のポルシェを自宅のガレージ内に所有する大邸宅を、助成対象となる集合住宅として偽装することを防ぐだけなら、なぜ5台や4台ではなく、わざわざ6台なのであろうか。この点について、助成プロジェクトを運営している監査法人プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の誰も、私に正確な説明をすることができなかった。
他方、駐車スペースが6台分以上あればメリットがある。充電ポイント1か所につき1,500ユーロの補助金が支給され、双方向充電(つまり車から電力網へ電力を供給できる)機能を備えた機器には2,000ユーロが支給される。駐車スペースに事前配線(つまりウォールボックス用の接続のみ)を施した場合は、1,300ユーロが支給される。
要するに、私たちのような予算を厳密に計算しなければならない所有者組合にとって、このプログラムはまさに資金面で大きな助けとなる。ただ、「6」という数字さえなければよかったのだが。私たち全員が補助金を確実に受けられるようにするには、Cさんが、自分の駐車スペースに配線工事だけを行えば十分だった。1,300ユーロの補助金分を差し引いた後の彼の負担額は、わずか450ユーロだ。
私は彼にメールを送った。Cさんは、なかなか返事をくれなかったが、再度催促されてようやく返信してきた。そして、電気自動車に対する彼の考え方は何も変わっていないと簡潔に伝えてきた。その返信の最後に、皮肉のつもりなのか定かではないが、「将来、皆さんがウォールボックスを設置しやすくなるような、さらなる助成制度が登場することを願っている」と付け加えてあった。
私たち他の地下駐車場共同所有者たちは、歯ぎしりしながら、Cさんが本音では望んでいると思われることを、彼に提案することにした。つまり、私たちが助成金を受け取るために、彼の自己負担分である450ユーロを私たちが支払うというものだ。そうすれば、彼は自分の駐車スペースの電化を完全にタダで手に入れることになる。
しかし、この提案に対する彼の返答を聞いたとき、私たちは呆気にとられた。その答えは「ノー」だったからだ。Cさんは、電化をタダでさえも望んでいなかったのだ。そして、この件についてこれ以上私たちと話し合う気もないようだった。終わり。
眠れない夜を過ごした後、奇抜なアイデアが浮かんだ。もし、Cさんの駐車スペースを、とにかく電化してもらったらどうだろう?彼の駐車スペースに通じる電気ケーブルは、2つの壁を通り抜けることになるが、それは常に地下駐車場の天井下にあるケーブルブリッジを経由する。そして、このケーブルブリッジは私たち全員の共有財産だ。
つまり、Cさんは、ケーブルブリッジを経由して彼の駐車スペースに配線することを私たちに禁止することはできない。ただしこの場合、間もなく開催されるマンションの所有者による総会で、過半数が地下駐車場のこの電気設備整備に賛成票を投じる必要がある。
そして、彼らはこの提案に賛成せざるを得ないはずだった。なぜなら、現在の法的状況では、マンション所有者は原則としてウォールボックスを設置する権利を有しているからだ。
そこで私は、マンション所有者からの委任状を携え、全所有者を代表してPwCに、5基のウォールボックスの設置と、6番目の駐車スペースへの事前配線に関する補助金申請を提出した。
それでも、所有者総会の当日はかなり緊張していた。それはCさんがこの計画を知ったら、どう反応するだろうか予測できなかったからである。
しかし、Cさんへは欠席していた。他のマンション所有者の過半数は、ウォールボックス設置に賛成した。Cさんの件に関するさらなる驚愕の事実は、その後に訪れた。管理人が気づいたのであるが、Cさんの車がいつも停まっているあの6番目の地下駐車場スペースは、実は彼の所有物ではなかったのだ。それはおそらく投資家であろうが、別人の名義で登録されていた。この事実は、電化に関する多数決の結果には何の影響も与えず、私たち駐車スペース所有者は安堵した。
しかしその後、PwCから私の補助金申請に関する連絡が入った。最初は意味がわからなかった。折り返しの電話を頼んだ。そして電話がかかってきても、担当者が何を言っているのか理解するのに少し時間がかかった。
彼が言うには、補助金申請ができるのはいわゆる「物件」が1つの場合だけであった。そして、私たちの場合は残念ながら1つの案件ではなく、3つの案件となるので申請できないという。
「でも、なぜ?」と私はうめくように言った。「そちらの建物は、番地が3つ存在するからです」と、相手は言った。Googleマップで確認したそうだ。
私は笑って、それは秘密でもなんでもなく、歴史的な経緯によるものであり、過去120年にわたるこの建物が成立してきた由来と関係があると説明した。
彼は申し訳ないと前置きしつつ、助成の対象となるのは、常に1つの番地につき1件であると述べた。そして、事情により3つの番地がある場合は、それは3つの案件として扱われるのだという。3つの案件にそれぞれに、少なくとも6つの対応する駐車スペースが必要だ。つまり合計18台分が必要となる。
その瞬間、明らかになった。我々は脱落したのだ。もう終わりだった。というのも、我々にはたった6台分のスペースしかなかったからだ。
まる1年間、技術者たちと交渉し、地下駐車場の駐車スペースを所有する個人主義者たちをまとめ上げ、自分の駐車スペースの所有者ですらない妨害者をも説得した。助成ポータルサイトと格闘して申請書を完全かつ正確に提出し、マンション所有者総会でも勝利を収めた。わたしはこの案件にすさまじい時間を費やしたのだ。それなのに、結局のところ、ある監査法人の職員が、助成ガイドラインのどこにも記載されていない「番地」というジョーカーを、まるで手品のように持ち出してきたのだ。
消費者保護団体は、この助成条件が現実離れしていると批判している。
大手経済法律事務所に所属し、こうした助成金に関する助言を行っているある弁護士(彼らは匿名を希望している)が私に語ったところにによると、この基準が全員に等しく適用される限り、つまり全員が平等に扱われる限り、法的には実際に許容されるという。そもそも、彼はこう付け加えた。助成金に関しては、「助成金支給者」――つまり国家――には広い裁量権がある。「市民が助成金を受け取る権利は、原則として存在しない」という。
それでも、連邦消費者センター連合のグレゴール・コルベ氏は、この助成プログラムに批判的だ。交通省が集合住宅への充電スタンド設置を助成するのは良いことだが、「残念ながら、助成条件は多くの消費者のニーズからかけ離れている」という。条件は「申請者の生活実態を反映すべきであり、不条理な結果をもたらすべきではない」のだ。
そして実際、 これほど高いハードルは、プログラムの公言された目的――すなわち集合住宅での電気自動車充電を促進すること――を損なうのではないか?
連邦交通省は、そうではないと回答している。これらは「意図的に設定された枠組み」だという。案件ごとに1つの住所番号を割り当てるという規定は、「助成基準を法的に確実かつ統一的、かつ検証可能な形で適用するため」、つまり疑義が生じるケースを回避するためのものである。また、採算性調査によれば、助成は駐車スペースが半ダース以上ある場合から初めて「導入に向けた実質的な追加のインセンティブ」となるという。
一方、駐車スペースがわずかしかない場合、助成がなくてもウォールボックスを購入する余裕はあるはずだ。
今、私の隣人たちもそう考えてくれることを願っている。
Die Zeit von Nr. 29, 2.7.2026, S. 20
マルク・シュペルレ(MARK SPÖRRLE)
- ドイツの都市部では、集合住宅の居住者は、居住地近くの特定の場所に路上駐車することが認められている。その際に居住者は、行政当局に対して届け出を行い、許可証を入手した上で、駐車の際には常時それを掲示しておかなくてはならない。驚くべきことに、この許可証の発行は有料であるが、当該地域の路上駐車できるスペースと当該地域内自家用車の保有台数(≒許可証の発行枚数)には何の制限もないそうである。つまり許可証を持たず駐車をすると即違法となるが、許可証があったとしても、駐車スペースがあるかどうかの保証はは全くないのである。当該地域の住民は経験的に皆知っているが、絶対的に駐車スペースの方が足りないので、記事のようなビンゴゲームが毎日繰り広げられることになる。
著者も友人宅に呼ばれ、帰宅しようとした際に、「近くの駅まで送ってあげるのが礼儀であることは知っている。ただ君を送った後に、家に戻ると、さっきの駐車スペースはもうなくなっていて、新たな駐車スペースを近所で見つけるのは一苦労になることがもう見えている。なので失礼は重々承知なのだが、玄関前でお別れとさせてくれ」という会話を良く聞いた経験がある。 ↩
- ドイツ自動車連盟.日本のJAFにあたる。 ↩